書籍・雑誌

2017.11.06

村上春樹「ロング・グッドバイ」

「長いお別れ」は12年ほど前に読んでから、何度か読み返していたが、この新訳版を読んでもほとんど違いがわからなかった。あまり細部まで読み込んでいなかったのだろうか…。
逆に言えば雰囲気は旧訳版とほぼ同じで、やはりこの雰囲気とストーリーが好きな作品だということは再認識できた。後述する村上春樹自身による解説を読んで納得したけど、フィリップ・マーロウだけの魅力ではなく、ロスの街の描写に込められた愛着のようなものも魅力がある。

本書の一番の読みどころは訳者村上春樹による解説で、これが熱い。村上春樹の本なんてそんなに読んでないけど、これほど熱く語っているのが意外で、楽しく読めた。

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2017.11.04

城山三郎「官僚たちの夏」

まずまずおもしろかっったけど、やはり「落日燃ゆ」と同じイライラが募ってしまった。「雑だ」ということを美学のように押し出して、細かいことにこだわらないのはいいが、結局それが自分の理想の実現の妨げになってしまう。

本人はそれで良いかもしれないが、部下など周囲の支持者が気の毒すぎる、と書いていて、身につまされるところがあるのが読んでいて辛かったのかも。

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2017.09.02

「〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則」

書いてあること自体は、関連する業界にいる立場からすると目新しいことはない。けど、この手の本はたまに読んで気分を高揚させないと。

最終章はまさに、そういった高揚感を味あわせてくれた(以下、引用)。

われわれは、すべての人類とすべてのマシンがしっかりと結び付いた地球規模のマトリックスに向かって容赦なく進んでいる。このマトリックスは、われわれが作ったものというよりプロセスそのものだ。われわれの新しい超ネットワークは途切れることのない変化の波であり、われわれの需要や欲望を新しく組み替えては絶えず前へと溢れていく。今後30年の間にわれわれを取り巻く個別のプロダクトやブランド、会社については完全に予想不能だ。
つまり、より流れていき、よりシェアしていき、よりトラッキングし、よりアクセスし、よりインタラクションし、よりスクリーンで読み、よりリミックスし、よりフィルタリングし、よりコグニファイし、より質問し、よりなっていく。われわれは〈始まっていく〉そのとば口にいるのだ。


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2017.07.30

「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気

小学から中学の頃にかけて、テレビでよくみてた「宇宙戦艦ヤマト」。そのくらいの歳でも、作品が回を重ねるたびに迷走していることは感じてたが、裏側がこんなだったとは全く想像できない。

ただ本書がすごいのは、その裏側に関心を持って読み始めたにも関わらず、最終的にはヤマト制作の裏側自体はどうでもよくなり、ヤマトはこの西崎義展という人物の破天荒な一生がフィクションでないことを実感するための材料に成り下がるところだ。

総合プロデューサーとして、自分で集めた金を使って、作品=自分自身を世に認めさせるものにするために何でもやるという生き方(きれいごとではなく、法を破ること、他人の人生を狂わせることも厭わない)は、まさに狂気という言葉しかない。
経営者目線で現場に介入してくる厄介な人物というと、スティーブ・ジョブズなんかにも通じるところはありそうだけど、こちらの方がタチは悪い。

それでも、読後はどこか爽やかになって元気が湧いてくるという、怪書だった。

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2017.07.09

「大乗仏教 こうしてブッダの教えは変容した」

一般教養として、単純な興味から読んでみたのだが、思った以上におもしろかった。

よりハードルを低く、万人ウケする方向へ変容した宗派が、結果として多くの信者を獲得して生き残ってきた様子がよくわかる。

「よりスピーディーに悟りを開ける方向」という表現がツボで、エンターテインメントの世界に通じるものだ。
楽しさを得るまでのコストが低いものが一般には受け入れられ、それが競争の軸になって行く。もともとの教えに含まれていた輪廻転生を活かした時間軸の広がり(輪廻転生の中でブッダに何度も出会う)から、パラレルワールド的な空間軸の広がり(無限の多世界が存在しその中にブッダがいる世界が多くある)まで、何でもありなところがおもしろい。

以前読んだイスラム教に関する本で、やたら「ポイント」を稼ぐ活動が重視されていることが、宗教的な活動に熱心な要因なのかと思ったのだが、仏教にもそういう要素があるというのも初めて知った。

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2017.06.24

「いつも、気づけば神宮に」

軽い気持ちで手に取ったのに、いきなり最初の「かすみ草の系譜」、1992/10/10の甲子園の試合で故大杉氏が広沢選手に乗り移って打ったかのようなホームランの話に泣く。
この試合は土曜でテレビでも見てたし、当時新聞や雑誌もいろいろ読んだけど、レフトスタンドで大杉氏のテーマが演奏されたということは知らなかった。今だったらきっとネットニュースにはなっていただろう。

「背番号《1》の系譜」では、自分と似た体格ということで思い入れのあった青木から10年前にもらった年賀状を、お守り代わりに持ち歩いている若松の話に、また泣く。

「脇役の系譜」ではやはり角!
確かに目立たない選手だったけど、この人はとても記憶に残っている。何か持っている人という気がして、同じ脇役の系譜でも渋井じゃないやろーとは思う。むしろ土橋タイプではないか?
そして驚きだったのが王の一本足打法で有名な荒川コーチが杉浦や八重樫に一本足打法をゴリ押ししていたこと(しかも王と同じパンツ一丁で刀で紙を切るやつもやらされたらしい)。
杉浦はそのおかげでライトに強い打球を打てるようになった、とか。強く引っ張りすぎてライナーが多いイメージが強かったのだが。日本シリーズでの代打サヨナラ満塁ホームランは荒川コーチが打たせたものと言えるのかも。

「国鉄戦士たちの系譜」ではカネやんこと金田正一氏の破天荒ぶりが元チームメイトから語られているのが興味深い。本当にそこまでめちゃくちゃだったとは(笑)

そして、「負けグセの系譜」では何と言っても関根潤三氏!
「一勝二敗の勝者論」という、関根潤三氏がヤクルト監督退任翌年に出版した本。著者は負け越して勝つなんておかしいだろうと思っていたが、年を経てその本当の意味に気づいたので関根潤三氏に会いたくなった、というエピソード。しかし関根潤三氏は「何これ?僕が書いたの?」「バカ言っちゃいけないよ。一勝二敗で勝者であるはずがない」などと言う。完全にギャグ展開に…。

本当におもしろい本だと思うけど、スワローズファン限定で、このおもしろさを共有できる人が周囲にいなくて残念。

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2017.06.17

ダニエル・カーネマン 「ファスト&スロー(上)」

ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか? (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)システム1とシステム2についての説明が中心の前半は間違いなく面白い。
省エネ・高速だけど雑なシステム1と、緻密で高機能だけど、エネルギーを食うし遅いために極力働きたくない怠惰なシステム2。後から示される多種多様なバイアスはほぼシステム1が要因となっている。

システム1は何の努力もせずに印象や感覚を生み出し、この印象や感覚が、システム2の形成する明確な意見や計画的な選択の重要な材料となる。システム1の自動運転が生み出すアイデアのパターンは驚くほど複雑だ。だが、一連の段階を踏み順序立てて考えを練り上げられるのは、スピードの遅いシステム2だけである。システム2は、システム1の自由奔放な衝動や連想を支配したり退けたりすることもできる。



脳はなぜ「心」を作ったのか「私」の謎を解く受動意識仮説 (ちくま文庫)

このシステム1とシステム2の動きは物理的にもよくできていると思うし(こういうトレードオフを補完しあう複数のサブシステムを組み合わせたシステムは実際によくみられる)、右の本を読んで衝撃を受けた、「受動意識仮説」でいう後付けの意識というのはシステム2のことなのかと納得してしまう。

ただ、残念なのは、我々には種々のバイアスがあって、その原因がシステム1とシステム2によって説明できる、ということを証明するための実験が延々と続き、途中でしんどくなってくるところ。なので下巻はギブアップ。また時間を置いてこの話を読みたくなったら読もう。

「もっと頭を使って」というのはシステム2を働かせてということだと気づけば、日常でもその指導方法も工夫ができそう。例えば、とても雑な箇条書きのパワポ。思いつくまま項目を並べただけで、これらを論理的に説明するところまで頭を使わなかったのだろう。こういう場合は逆に文章にさせることでシステム2を働かせるのがいいのかもしれない。


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2017.05.11

「ハーバード・ビジネス・スクールの投資の授業」

ハーバード・ビジネス・スクールの投資の授業主に株を対象として、一般的には十分に合理的と言われる株式市場の中で、他よりもよい運用成績をあげるための「目利き力」の源泉について書かれた本。

情報の取り方・解読法など当たり前のことから、人間の認知バイアスなどから生じる一物二価の投資機会を見つけたり、市場のプレーヤーのインセンティブを理解してノン・エコノミック・セラーを探し当てたり、という自分はあまり知らなかったことまで体系的に説明してあり参考にはなった。

全体的には広く浅くという感じで、金融工学の部分については「金融工学、こんなに面白い」の方が詳しくておもしろく読める。
また認知バイアスについてもかなりあっさりと書いてあるが、今読んでいる「ファスト&スロー」のようなより専門的な本の方が当然だけど、おもしろい。

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2017.04.29

早川義夫「たましいの場所」

たましいの場所 (ちくま文庫)伝説のバンド、ジャックスを解散後短いソロ活動を経て、音楽活動から離れて書店主になって23年後の1994年に活動を再開した著者。

ジャックスはあまり好きではなかったのだが、活動再開後のソロアルバムを友人が聞いていて、それが心に刺さったのを覚えている。「言う者は知らず、知る者は言わず」は今でも愛聴盤。

やはり独特の感性(陳腐な表現だけど)を持った人なんだなと実感した。
仕事の上でも以下の言葉は心に刻んでおきたいと思った。(このブログは批評なんて大げさなものじゃないので、好き勝手書くだけですが)

「だいたい、批評したがる人は、ものを作らない。ものを作っている人は、人を批評しない。人を批評する暇があったら、自分を批評する。なぜなら、自分を見つめた時に、作品は生まれて来るからだ。人を貶したり、悪口を言ってる間は、ものを作れていない時である。褒めるのは、創作につながり、悪口は、嫉妬から生まれる。」
「本当の批評は、人のことより、自分のことを書く。自分がいったい何者なのかを書く。」


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2017.04.12

「意識」とは何だろうか―脳の来歴、知覚の錯誤

「意識」とは何だろうか―脳の来歴、知覚の錯誤 (講談社現代新書)サイバーパンク大好きな立場からすると、脳はデジタル化だって可能(ROM人格構造物とか)と思いたい。

けれど本書は、意識は脳内の物理的現象だけで説明できるものではなく、身体や環境を含めた「脳の来歴」が重要なのだと主張している。逆さメガネへの適応など、根拠としてあげられている実験はどれも興味深い。

意識の外側の話は、今読んでる「ファスト&スロー」のシステム1とシステム2の話とも整合性があって、この分野は本当におもしろい。

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